この
『僕のなかの壊れていない部分』はたぶん大多数の女性には反感を持たれる小説でしょうね。主人公の行動には嫌悪感さえ抱くかも知れない。恋愛における女性の「甘え」に対して、とんでもない身勝手な理屈をこねて突き放しちゃう。突き放して、顔面にもう一発ケリを入れるくらいの勢いでね。
でも、そんな主人公にちょっと憧れたのも事実。
イチローやナカタに「憧れる」のではなく、脱サラしてギャンブラーになりたいって「憧れ」に似てるかな。彼の考えには共感はできないけど、体感をしてみたいって感じ。もしも役者だったら、ぜひ松原直人を演じてみたい。ところで、彼の「死」のとらえ方は
『ノルウェイの森』の僕に似てません?
文庫本の帯でも触れているように、作者の白石一文さんは人を愛するということや生きるということを「疑う」人物を通して、そのことを逆説的に伝えたかっただろうと思う。そういう意味では、反感と憧れを感じされるキャラを作り出した筆力はすごいですね。
個人的には「人は何のために生まれたのか?」というテーマで語られる大根の例え話がお気に入り。
『氷点』で陽子のお祖母ちゃんが諭したセリフに通ずるものがあります。
長くて理屈っぽい独白や引用が多い上に起伏に富んだストーリーではないけど、小難しい話がOKな人なら、先の展開が気になって仕方ないミステリーとは正反対の、文脈を租借するような読書が楽しめる一冊です。