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風の中の翅のように | 船山馨

e0012194_23491681.jpg大学の頃は手当たり次第に本を読んでいたので、図書館に通う傍ら、古本屋にも頻繁に足を運ぶこともしばしば。そのほとんどは処分しちゃったんだけど、手放せなかったお気に入りの一つが、この『風の中の翅のように』。主人公は請われて浅草オペラの舞台装置を手伝うんだけど、この題名はオペラの『リゴレット』にかけてるみたいです。

その男爵家の生まれでありながら華族の特権意識を嫌って出奔し、画家を目指す主人公の曽根と彼が下宿する印刷所のバツイチ娘との関係を軸に、留置所で出会った革命家、勝ち気な曽根の妹、特権意識が抜けない弟、社会主義に傾倒していく元使用人、友達の演歌師など、個性溢れる登場人物がみんな魅力的。とくに曽根の下宿先の周吉・多津子の江戸っ子人情とアナキストである久坂の信念には心打たれます。これこそが人と人とのつながりであり、自分が自分であるということの見本。現代のコミュニケーションの薄っぺらさを感じずにはいられません。

大正という時代を背景に、山県有朋や大杉栄、甘粕正彦という実在の人物と創作した人物が交錯するところや当時の東京の様子が語られるのもおもしろい点の一つ。四谷大木戸(いまの四谷4丁目)は「馬糞臭い土埃立つだだっ広い道の両側に、古びた低い家並み」、目黒の碑文谷は「閑寂な田園風景」ですからね。ほんの90年前の東京って、そんなだったんです。

残念ながら新刊では出てないんですが、古本屋で見かけたら是非読んでみてください。
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by dlynch | 2006-09-25 00:06 | book
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