これまでに数多くの小説を読んできて、本棚に残しておこう=個人的に好きだなぁと思う作品は、物語やメッセージもさることながら、文体に因ることが多い。その意味で、多島さんが醸し出す独特の空気感のある文体は、過去にも何度か触れてるとおり、代え難い魅力を孕んでます。
『白楼夢』の舞台は1920年代のイギリスの植民地だった頃のシンガポール。シンガポールには行ったことがないし、この頃の歴史なんてほとんど知らないのに、なんだか埃っぽい街の雰囲気がその文体から漂ってくる。
シンガポールの顔役として、知らず知らずの間に上り詰めていく林田の虚無感、その林田を追うケイン虚無感、殺された白蘭の虚無感、そしてその裏で蠢く政治的な思惑。全体を退廃的なムードが覆っていて、そのざらついた感覚が独特のミステリー感を煽ってくれます。ネタバレなので反転>>
曹海烈のあっけない告白と鳳生の絡みがなかったことが拍子抜けだったけど、現在と回顧のバランス、その回顧の時系列の並べ方が絶妙で読ませてくれます。そう、読ませるんだよねぇ。